医療現場のカスハラは「接遇」で減らせるのか? がん患者の立場から見た本音と、組織で線を引くべきこと

「患者さんからの理不尽な要求や暴言で、職員が疲れ切っている」
「カスハラ対策の研修をしたいが、接遇研修と何が違うのか分からない」

医療機関の管理職や医療安全の担当者から、こうしたご相談が増えています。東京都の条例や国の法改正など、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は社会全体の課題になりました。医療の現場も例外ではありません。

この記事では、白血病と20年以上付き合ってきた患者の立場と、医療接遇研修の講師としての経験から、「接遇で減らせるもの」と「接遇では防げないもの」を分けて考えてみます。

はじめに:職員を守ることが、患者を守ることになる

最初にお伝えしたいのは、暴言・暴力・脅し・長時間の拘束などは、どんな理由があっても許されないということです。これは「接遇が足りないから起きる」ものではなく、組織として毅然と対応すべきものです。

職員が安心して働ける職場でなければ、患者に良い医療は届きません。カスハラ対策は、職員のためであると同時に、ほかの患者さんを守るためのものでもあります。

患者の「怒り」の多くは「不安」から始まっている

一方で、患者として医療現場に通い続けてきた私が感じるのは、強い言葉の裏には、多くの場合「不安」があるということです。

がんの疑いを告げられてから検査結果を待つ間、私は仕事、家族、将来のことで頭がいっぱいでした。そんなときは、ちょっとした待ち時間や、説明が足りないと感じる一言にも、心が大きく揺れます。怒っているように見える患者さんの多くは、実は「分かってもらえない」「放っておかれている」という不安を抱えています。

この不安が小さいうちに受け止められれば、多くのトラブルは大きくならずに済みます。ここに、接遇ができることがあります。

接遇で「減らせる」もの:不安から来る怒り

次のような場面は、接遇の工夫で、患者の不安が怒りに変わる前に防げることが多いものです。

1. 待ち時間への不安

患者が苛立つのは、待つこと自体よりも「いつまで待つのか分からない」「忘れられているのではないか」という不安です。目安の時間を伝える、ひと声かける、それだけで受け止め方は大きく変わります。(参考:医療現場の「待ち時間クレーム」、どう防ぐ?)

2. 説明が足りないと感じたとき

処置や検査の前に、何をするのか、どのくらい時間がかかるのか、痛みはあるのかが分からないと、患者は身構えます。事前のひと言が、不信感を防ぎます。(参考:処置・検査前の説明で患者さんの不安を解消)

3. 「冷たい」と感じる言い方や態度

忙しいときほど、目を見ずに話したり、言葉が短くなったりします。医療者に悪気はなくても、患者は「軽く扱われた」と受け取ることがあります。目を合わせることや、クッション言葉を添えることが、関係を和らげます。

4. 最初の対応でのつまずき

苦情は、最初の受け止め方で大きく変わります。言い分をさえぎらずに最後まで聞き、「ご心配でしたよね」と気持ちを受け止めてから事実を確認する。この順番を職員全員で共有しておくだけでも、こじれるケースは減ります。

接遇では「防げない」もの:組織で対応すべきこと

一方で、次のような行為は、接遇の工夫で解決しようとしてはいけません。担当者一人に任せず、組織として対応する仕組みが必要です。

  • 暴言、威圧的な言動、暴力
  • 土下座の要求や、職員個人への執拗な攻撃
  • 長時間にわたる拘束、何度も繰り返される同じ要求
  • 医療的に妥当でない対応の強要

こうした場面に備えて、複数の職員で対応する、記録を残す、上司や担当部署に引き継ぐ、必要に応じて警察に相談するといったルールを院内で決めておくことが大切です。「どこからがカスハラか」の基準を職員で共有しておくと、現場は迷わずに動けます。

研修でやること:2つを分けて学ぶ

カスハラ対策の研修では、次の2つを分けて扱うと、現場が納得しやすくなります。

  1. 患者の不安を理解し、こじれる前に受け止める力(接遇):患者の立場から見た「怒りの正体」を知り、最初の対応や声かけを見直す
  2. 理不尽な要求から職員を守る仕組み(組織対応):カスハラの基準、対応の流れ、記録と報告のルールを確認する

私の研修では、主に1つ目を担当し、患者として実際に感じてきた不安や、救われた言葉・傷ついた言葉をお話しします。「なぜ患者はあんな言い方をするのか」が分かると、職員の受け止め方に余裕が生まれ、必要以上に傷つかずに済むという声もいただきます。組織としての対応ルールづくりについては、貴院の担当部署や専門家と連携して進めていただくのがおすすめです。

まとめ:線を引くことと、寄り添うことは両立できる

カスハラ対策というと、「患者に厳しくする」ことだと思われがちです。しかし本当に大切なのは、許されない行為にははっきり線を引き、不安から来る怒りには寄り添うことです。この2つは矛盾しません。

「職員が疲弊していて、患者対応を見直したい」「カスハラ対策と接遇をあわせて学べる研修を検討している」という段階でも、お気軽にご相談ください。患者の困りごとに気づく視点については、合理的配慮は医療機関でどう実践する? がん患者が「助かる」ちょっとした配慮10例もご覧ください。研修の組み立て方は病院の接遇研修、何をどのくらいやる?でもご紹介しています。

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