新人薬剤師研修に「患者の講演」を入れる理由と、効果が出るプログラムの組み方
「薬の知識は教えたのに、患者さんの前に出すとまだ不安が残る」
「新人研修に、知識以外の“医療人としての心構え”を入れたい」
薬局企業や病院薬剤部で新人教育を担当されている方から、こうしたご相談をいただきます。私は白血病と20年以上付き合ってきたがんサバイバーであり、薬剤師でもあります。大手薬局企業や病院の新規採用薬剤師研修で、患者としての体験をお話ししてきました。
この記事では、新人薬剤師研修に「患者の講演」を入れる理由と、効果が出るプログラムの組み方を、元・製薬会社の研修担当としての視点も交えてご紹介します。
なぜ今、新人薬剤師研修に「患者の声」が必要なのか
薬剤師の仕事は、調剤を中心とした「対物業務」から、患者さんのケアを中心とした「対人業務」へと大きく変わってきています。薬の知識があるだけでは、患者さんの信頼を得ることはできません。
患者さんが何に不安を感じ、薬剤師に何を求めているのか。それを新人のうちに、教科書ではなく当事者の言葉で知っておくことが、対人業務の土台になります。薬局の新人研修で患者講演が求められている背景は、なぜ「患者講演」が必須なのかでもまとめています。
患者の講演で、新人が気づく3つのこと
研修後のアンケートで、新人の皆さんの反響が特に大きかったのは次の3つです。(参考:患者の本音は「病気より私を見て」)
1. 「病気」ではなく「人」を見る
私は毎日を幸せに暮らしていますが、病名を伝えた途端に相手の態度が変わる経験を、今でもします。「白血病=かわいそうな人」という無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)が、自然な会話に壁を作ってしまうのです。患者が求めているのは、過剰な配慮ではなく一人の人間としての普通の接し方です。
2. 説明する前に、まず聴く
新人のうちは「良い説明をしなければ」と焦り、自分が話すことを優先しがちです。しかし患者は、何かしらの不安を抱えて薬局に来ています。その気持ちを聴かずに、どれだけ正確な服薬指導をしても、心には届きません。
3. 患者にとっては「新人」も「プロ」
患者から見れば、目の前の薬剤師が今日入社したばかりかどうかは関係ありません。「新人だから」は社内でしか通用しない理屈です。この意識が、学ぶ姿勢を大きく変えます。
効果が出るプログラムの組み方(例)
患者講演は、ただ話を聞くだけでも心は動きます。ただ、行動まで変えるには、聴いたことを使ってみる時間が必要です。私が新規採用薬剤師研修で行っている、2時間半の進め方の一例です。
| 時間 | 内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 事前 | 事前質問:講師に聞きたいことを新人から集める | 「知りたいこと」が分かると、集中力と満足度が上がる |
| 60分 | 患者講演:告知から現在までの体験と、薬剤師に救われた言葉・傷ついた言葉 | 患者の不安を、自分のことのように感じる |
| 10分 | 休憩 | |
| 50分 | ワーク:傾聴と質問の練習(患者役・薬剤師役・観察役) | 「まず聴く」を体で覚える |
| 30分 | 事前質問への回答と振り返り:明日から変えることを1つ決める | 学びを現場の行動につなげる |
傾聴や質問の具体的な技術は、患者さんの心を開いて気持ちを聴く方法や話を引き出すための質問スキルでもご紹介しています。
時間に余裕がある場合は、服薬指導のロールプレイを組み合わせるのもおすすめです。知識を「患者に伝わる言葉」に変えるには、実践の繰り返しが一番の近道です。(参考:新入社員研修にロールプレイが絶対に必要な理由)
外部講師を「研修全体の1パーツ」として生かすコツ
私はかつて製薬会社で研修の企画・運営を担当していました。そのとき、事前に打ち合わせをしたのに、外部講師が自分の話したいことだけを話して帰ってしまい、前後のプログラムとかみ合わなかった苦い経験があります。
外部講師の講演を新人研修全体の中で生かすために、次の点を事前に共有しておくと効果的です。
- 研修全体の流れ:前後のコマで、誰が何を教えるのか
- 今年の新人の特徴と課題:去年の新人とどこが違うか
- 研修後に新人に求める行動:配属後、現場で何ができるようになってほしいか
私の研修では、毎年同じ話をするのではなく、企業ごと・年ごとの課題に合わせて内容を組み直しています。(参考:「言いっぱなし」の外部講師はいらない)
新人を育てる側(指導薬剤師・プリセプター)の方へ
新人研修の効果を現場で定着させるには、配属後に新人を見守る先輩の関わり方も大切です。愛知県薬剤師会の指導薬剤師研修で3年間お会いしてきた先生方から、いちばん多く聞いたのは「教えているのに、どうして新人は動いてくれないのか」という悩みでした。
その答えをまとめたのが、書籍『教えたのに、なぜ動かないのか——薬剤師指導者のための「学生・新人が自ら育つ」スキル大全』です。問いかけやフィードバックなど、新人が自ら育つ関わり方をまとめています。新人研修とあわせて、指導者向けの研修もご相談いただけます。
まとめ:知識に「患者の心」を重ねて、現場に送り出す
新人薬剤師研修の目的は、知識を覚えることではなく、患者さんから信頼される薬剤師として、現場に立てるようになることです。患者の声を聴く時間は、その最初の一歩になります。
「来年度の新人研修に組み込みたい」「オンラインで全国の新人に届けたい」など、ご相談の段階でも構いません。貴社・貴院の研修全体の流れに合わせて、内容と時間をご提案します。費用の目安は講師費用のページをご覧ください。

